死者の部屋 (新潮文庫 テ 22-1)
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フランク・ティリエ
新潮社
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失業して自棄になった男二人が車で撥ねてしまった男性は200万ユーロも持っていた。失業中の男二人は死んだ男を隠し、金を山分けすることにした。しかし撥ねられた男性は誘拐された少女の父親で身代金を届ける途中だった。少女は死体で発見されることとなる。クリスマス休暇で人手の足りない警察は産休明けでプロファイリングが趣味という双子の母親リューシー巡査長を加えて捜査を進める。
プロファイリングが趣味って(笑)ということで読んでみた。
最初は鼻で笑われながらも、上司たちがそれまでとは違った着眼点に耳を傾けるようになっていく、上司とルーシーの成長話にもなっているのかな?
犯人の異常性が、もうただただ異常で、それだからこそ現実社会にも容易に想像できるのが恐ろしい。
事件の解決よりもそこに至るまでのほうが読み応えを感じる。
映画にもなってリューシーの活躍する続編もあるらしいので読んでみたいかな?
個人的に気になったのは誘拐された糖尿病の少女の描写。
長時間眠らされ目覚めた時に低血糖の症状が現れているのにインシュリンを注射してるのに驚いた。
確かにブドウ糖を口にしはしたがそれは注射の効果が現れて顔に赤みがさしてから、と書かれている。
身内にも糖尿病患者がいるが低血糖時にさらにインシュリンを注射するのは信じられない。
身内はⅡ型、少女はⅠ型、と種類が違うからだろうか。
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病気の妻を抱えたグザヴィエ・ローモンは妻殺しで罪を問われているランベールの事件を担当する裁判長。ランベールは無実を主張するが誰も言い分を正面から受け止めようとしない。しかしローモンはランベールが殺したとの確信が持てず、様々な可能性を探る。審理の結果は…?
これは裁判の行く末に固唾を呑むミステリではない。
ランベールと殺された妻の周辺を知れば知るほどに揺れ動くローモンの心理が見もの。
奔放なランベールの妻とある出来事がきっかけで心を壊してしまった自分の妻がシンクロしたかのような不思議な状態であったのかもしれない。
ローモンの妻が5年もの間伏せっている理由もランベールの話と平行するように語られることで心の揺れをリアルに感じる。
裁判は確かに終わりを迎えるが、それが真実なのかは判断できない。
先にも書いたがこれは裁判小説ではなくそれに関わる人の心理ドラマ。
裁判終了後におとずれた重大な変化をどう受け止め決心するかのローモンを見せるための法廷だったように思える。
この決心には一瞬驚かされるが彼の二重の解放感を素直に見られる自分がいる。
著者はメグレ警視シリーズで有名。
読んだことはなかったのだがこんな心理ドラマを書かれている方だったとは。
作家オーレリア・ベネットの誕生パーティーで彼女の出版代理人が銃で撃たれて死亡。ベネットさんの遺産を当てにした親類が間違えて殺したのか?事故なのか?検視官として初めて検死審問を担当するリー・スローカムと陪審員は死因の特定にたどり着けるのだろうか…。
本当に心配だった。
陪審員は日当3ドル、検視官は1ページの証言を聞くごとに25セント支給、ことごとくスローカムはこの話を持ち出して審理を長引かせるのだもの。
さらに、死体が増えると陪審員の日当は倍になるとまで(笑)。
証人のベネットさんまで「証言を活字にするのはお断り、もしするなら印税の前払いを」と宣言ですよ。
これはユーモアでドタバタしているうちに終わってしまうのかな?と思いかけるが大間違い。
垂れ流されているだけと思われた証言にしっかりと真相はあったのです。
気になるところはあったにしても見抜けませんでしたよ。
日当稼ぎで引き伸ばすことが目的と思われたスローカムの冴えはお見事。眠れる獅子といったところか(笑)。
しかし検死審問は裁判の前段階で法的に死因を特定するだけ。
「おのれの本分を見きわめて全うした役人」、締めくくるのにふさわしい言葉でした。
早川書房
北野 寿美枝(翻訳)
発売日:2008-05-09
おたふくかぜの高熱が原因で片方の耳が聞こえなくなったハリーだったが、ある日テレビを見ながら耳を触っていたら大量の膿が出て何故か聴力回復。しかし回復がもたらしたのは喜びだけではなかった。音をきっかけにそれに関する陰惨な事件が見えるようになってしまった。大学生になり、その感覚を鈍らせるため酒に溺れるようになったハリーは同じように酒で荒れた生活をしている武術家タッドと出会う。シンパシーを感じた二人は協力し合って酒を断とうと決心する。そこにハリーの初恋の人ケイラが現れ、彼女の父親の死の真相探りに協力することになる。
海外ドラマファンには意味深に感じるタイトル。「ロスト」で「エコー」ですよ。ちなみに無関係(笑)。
ランズデールの本は久しぶり。これまではハードカバーで出版されてから文庫化だったのに、これはいきなりの文庫。大人の事情というものでしょうか。
ランズデールで好きなのは、主人公が間違いながら成長していくところ。
間違ってくれるから真実味があるしこちらも肩入れしたくなる。
この本でもハリーはいくつか失敗している。小細工というよりも実際にしてしまいそうな些細なこと。
それが転がって大きなことになったり、道をそれていって関係なくなったり、読んでるこっちはこれはどうなるのか想像が掻き立てられる。
裏表紙のあらすじを読んで不思議な力が出てくるのは賛成できないなあ、と思ったが、その力を得てしまった故のハリーの苦悩、苦しんでいるのをわかっていながらもその力に頼りたいケイラ、そういった広がりがあるので読んでいて気にならなかったなあ。
何らかの影響で脳が変性をきたした結果、音を映像として解釈する能力が開発された例もある、と医学書に書いてあるよ、と触れられてるし。
ラストは都合よすぎる感じがしないでもないが、まだまだハリーは特殊能力に恐怖を抱いているし、最近不幸のどん底ドラマを見ているせいで無条件にハッピーを受け入れてもいい気がする(笑)。
もう一つ、ランズデールといえば犬の描き方が大好き。
犬の見た目のかわいさではなくて、一緒に生活しているからこそわかるような表現なのですよ。
「ダークライン」に出てくる「ナブ狩り」なんて未だに思い出しては口元が緩む。
今回は犬がいないのかなあ…と寂しく思っていたら途中から出てきましたよ。ケイラのお隣のウィンストン。
一見何も関係ないような犬ならではのおバカさんなこだわりが後に重大なポイントになるなんて!
クリスマス間近の町から二人の少女が姿を消す。家出?誘拐?事件に関わることになった警察官ルージュ・ケンダルは15年前に双子の妹が誘拐され殺されたことを思い出さずにはいられない。そこへ顔にひどい傷を負った女性が「あなたを知っている」とルージュの前に現れるがルージュの記憶にはない。この女性とルージュの過去、今回の誘拐事件との関連は?
ストーリーは捻くれた本読みには想像つく。
15年前の事件は冤罪だな、おそらく町の人が関わってるなとか、ルージュに近づいた謎の女性アリのことも。
しかしこれは話が見えていたとしてもその書かれ方に心奪われずにはいられない。
話が一段落したと思わせた後に控えていることが影響しているだろう。
監禁された少女たちの勇ましさが読みどころの一つなのだが、それがこんなことだったなんて。
事実を突きつけられても少女二人がいたことは動かしようがないくらいしみこんでしまっているもの。
読後、ああこれが、あああれもと次々に頭に浮かび、今度はルージュ、神父、アリたちの心に想いが広がり終わりが見つからない。
そんな何かを刻まれるような本でした。