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本の感想
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月への梯子
「月への梯子」
 [単行本]
 著者:樋口 有介
 出版:文藝春秋
 発売日:2005-12
 価格:¥ 1,600
 by ええもん屋.com

主人公のボクさんは40歳。
幼い頃の高熱が原因で知能は小学校高学年程度で停滞している。
ゆっくりでも確実に用事はこなせる。
息子の将来を案じ、お母さんはアパートの経営という仕事を残して逝く。
ボクさんは持ち前の根気と丁寧さで修繕等何でも片付けてしまう。
当然、入居者や近所の人達の暖かい援助もある。
そんな愛情に包まれて暮らしていたボクさんの生活が一変する。
外壁の塗装作業中に窓から入居者の死体を発見してしまう。
そのショックで梯子から落ち、頭を打って病院へ運ばれる。
意識を取り戻すとやけに視界が明るい。
段階をゆっくりと踏まなければできなかったことがすらすらとできるようになる。
考えや言葉もどんどん浮かんでくる。
頭を打ったことで脳の停滞していた部分が活性化したかのよう。
それだけではなく、入居者の殺人事件後住民が全員消えてしまう。
おまけに全員が身元を偽っていた…

みんなが親切で頭の回転の遅いことを馬鹿にしたり、それを利用してやろうなんて人はいなくて幸せに暮らしていた。
それが殺人事件を境に知らないでいたことを知ってしまう。
何故身元を偽っていたのか、親切な幼なじみの抱えていたもの…
殺人事件の犯人は誰か?のミステリーであり、愚鈍でなくなったボクさんの冒険譚でもある。
事件が一応の解決を迎えると、そこにはある結末が待っていた。
「アルジャーノンに花束を」を連想させる。優しくあたたかいけれど切ないお話。
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Pの迷宮
「Pの迷宮」
 [単行本]
 著者:深谷 忠記
 出版:角川書店
 発売日:2003-09
 価格:¥ 2,100
 by ええもん屋.com

ホテルのフロントに「人を刺した」と連絡が入るところから始まる。
序章では刺したのはもちろん、刺されたのが誰なのかは知らされない。
次の章から徐々に明かされる。
刺されたのは有名な精神科医、刺したのは主婦。
不倫関係のもつれが原因かと思われるが、そうではないらしい。
容疑者の主婦は刺したことは認めても、一切を語らない。
容疑者の娘はパニック障害をかかえている。
それを治したいと通院してもなかなか思うようにはならない。
そこで精神科医だけでなく、セラピストの治療も受ける。
それが原因で家族はとんでもない心の傷を負うことになるが、パニック障害は回復にむかう。
しかし、そのセラピストに関わることになったのは、後に刺されて死亡する精神科医が仕組んだことだった。

昔に拒絶された女性に対して、心の病気をかかえた娘を利用しての復讐という精神構造の破綻した精神科医が冒頭で刺された男。
どう利用したかというと偽の記憶をもたせるのだ。
「あなたの今の病気は過去の○○が原因なのです。酷くつらい経験に蓋をしてしまったので覚えていないだけなのです」
具体的にどうやって患者本人にありもしない記憶を植え付けるのかはわからない。
「こんなことがあったでしょう」と導くのではなく、本人が「こういうことがあったのを思い出した」と言い出すというのは不思議である。
だとすると、記憶を植え付けるというのは適当な言葉ではないかもしれない。
人間の脳は不思議だ、ということに行き着いてしまう。
著者あとがきに記されている参考図書にも興味をもった。
病気との取り組み、法廷場面、とても興味深く読めた。
小説というよりはルポのような印象もある。
裁判の様子を追うフリーライター(探偵?)が出てくるせいかもしれない。
テーマがテーマなので興味深く読んだのだが、主要人物、皆良い人過ぎ という感想もある。
皆が皆を思い遣っている。思い遣るからこそ発生した刺殺事件。
テーマや読み応えに比べればたいしたことではないかもしれないが、あそこまで自分のことは放っても他人を思い遣れるだろうか、と感じましたね。
他人じゃなくて家族だけれど。ほら、私心がささくれているから。

深谷さんの本は初体験。
他にも興味を魅かれるテーマで書かれているようなので読んでみたい。
ベルカ、吠えないのか?
「ベルカ、吠えないのか?」
 [単行本]
 著者:古川 日出男
 出版:文藝春秋
 発売日:2005-04-22
 価格:¥ 1,800
 by ええもん屋.com

1943年にアリューシャン列島に取り残された4頭の軍用犬。
1頭は元の主に忠実で敵が島に乗り込んできたときに地雷原に誘い込んで自身も爆死。
残りの3頭の血がこの物語の主人公。
今世紀に起こった戦争と関わりあいながら、あちこちに広がったこの3頭の血統が奇妙な巡り会わせをしていく。
犬だから寿命も短いし戦争の世でもあるから簡単に死ぬ。そして生まれる。
それが何世代も繰り返され、偶然の血の再会があり、助けられたり、義理の親子になったりと犬の血脈大河ドラマ。
この犬のドラマの間にはさまれる、老人の話。彼も犬を飼っていて(?)人間を攻撃するように訓練している。
この老人の目的は何なのか。
老人のところには誘拐された日本人ヤクザの娘もいるが、この娘がまた筋金入ってる。
彼女が犬になっていく様は格好良くもある。

近代史は不勉強なので、どうしても犬の物語のほうに心が傾く。
描かれる1頭1頭の境遇に入り込んでしまう。
「イヌよ、イヌよ」と語りかける、詩を思わせるような文体も原因かも。
潔さに目頭が熱くなったり、生さぬ仲で芽生える母性愛、親子愛に揺さぶられる。
擬人化はされていない。犬は犬である。
注文をつけるとすると、豊崎由美さんも書いていましたが、犬の系図があるといいんですけどね。
私の頭が悪いのか把握しきれなくなります。

古川さんの本は始めて読んだ。
ちょっとヘビーな印象があったので今まで敬遠していたが、他の本にも興味を持ちました。
世間のウソ (新潮新書)
「世間のウソ (新潮新書)」
 [新書]
 著者:日垣 隆
 出版:新潮社
 発売日:2005-01
 価格:¥ 714
 by ええもん屋.com

とてもわかりやすい解説でうなずきながら読めた。
鳥インフルエンザのことなんて、ヒステリックになった社会の様子だけで実際、その病気の型とか感染の状況とか理論だてた説明なんて頭に残ってない。
繰り返し報道しなければならなかったのは、神経質になっている様子ではなく、人間には感染し得ないという説明だったのでは。
「カラスにも感染している(おお、コワイ)」ではなく、
「鳥同士だし、自由に飛んでるんだものね」だったのですね。

日垣さんの「そして殺人者は野に放たれる」にも書いてありましたが、責任能力のない人の犯した重大犯罪への対処は理解しがたい。
責任能力がなくとも、その罪は罪だ。責任が負えないほどの病気であると国が判断したのなら国がそれに対して責任をもつべき。
責任能力がないと犯したことまでなくなるのは変ではないか。
なかったことになって、そのまま社会に投げ出すのはどうだろう。

冒頭にある宝くじの話。当選する確率と交通事故にあう確率では後者のほうが高いとのこと。
これを読んで何年か前に、ラジオでロンドンブーツの淳さんが同じような話を聞いて、
「じゃあ、事故、恐いじゃん」と言ったのを思い出した。
どちらも出くわす人は絶対にいるわけですけどね。
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photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
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