ホテルのフロントに「人を刺した」と連絡が入るところから始まる。
序章では刺したのはもちろん、刺されたのが誰なのかは知らされない。
次の章から徐々に明かされる。
刺されたのは有名な精神科医、刺したのは主婦。
不倫関係のもつれが原因かと思われるが、そうではないらしい。
容疑者の主婦は刺したことは認めても、一切を語らない。
容疑者の娘はパニック障害をかかえている。
それを治したいと通院してもなかなか思うようにはならない。
そこで精神科医だけでなく、セラピストの治療も受ける。
それが原因で家族はとんでもない心の傷を負うことになるが、パニック障害は回復にむかう。
しかし、そのセラピストに関わることになったのは、後に刺されて死亡する精神科医が仕組んだことだった。
昔に拒絶された女性に対して、心の病気をかかえた娘を利用しての復讐という精神構造の破綻した精神科医が冒頭で刺された男。
どう利用したかというと偽の記憶をもたせるのだ。
「あなたの今の病気は過去の○○が原因なのです。酷くつらい経験に蓋をしてしまったので覚えていないだけなのです」
具体的にどうやって患者本人にありもしない記憶を植え付けるのかはわからない。
「こんなことがあったでしょう」と導くのではなく、本人が「こういうことがあったのを思い出した」と言い出すというのは不思議である。
だとすると、記憶を植え付けるというのは適当な言葉ではないかもしれない。
人間の脳は不思議だ、ということに行き着いてしまう。
著者あとがきに記されている参考図書にも興味をもった。
病気との取り組み、法廷場面、とても興味深く読めた。
小説というよりはルポのような印象もある。
裁判の様子を追うフリーライター(探偵?)が出てくるせいかもしれない。
テーマがテーマなので興味深く読んだのだが、主要人物、皆良い人過ぎ という感想もある。
皆が皆を思い遣っている。思い遣るからこそ発生した刺殺事件。
テーマや読み応えに比べればたいしたことではないかもしれないが、あそこまで自分のことは放っても他人を思い遣れるだろうか、と感じましたね。
他人じゃなくて家族だけれど。ほら、私心がささくれているから。
深谷さんの本は初体験。
他にも興味を魅かれるテーマで書かれているようなので読んでみたい。
PR
この記事にコメントする