「日の名残り」をずっと前に読んだきりのカズオ・イシグロ。
優秀な「介護人」キャシー・H。「提供者」を世話している。
自分が生まれ育った施設の仲間も介護人だったり提供者だったりしている。
キャシーが施設での想い出や介護人としての仕事を通じて仲間との想い出を淡々と語る。
本当に淡々としている。
フィクションであるが、「提供者」という言葉から想像がつくようにテーマは重い。
ちょっと前に読んだ「わたしのなかのあなた」と通じるものがある。
あちらは一人の人のために一人の人が、だけれどこちらはそうなるべくして生まれてきた大勢の子どもたち。
ある目的を持ってこの世に生を受けさせられた。
待っているのは提供者としての人生だけなのに、語られる施設での想い出は普通の寄宿学校そのもの。
それでも運命を背負って生きているというか、生かされている。
提供者であることに疑問を持たせないようにするのが施設の目的だったのか、と思いたくなる。
しかし事実を伝えられるだけでそのように教育されているとはいえない。
疑問を持たないよう事実を伝えるだけというのが洗脳だといえばそうなのかもしれない。
愛し合っている二人なら提供を猶予されることもある、という噂にすがるのが切ない。
彼らにとってそれは初めての希望であり、同時に幻想。
魂などなくてもかまわない、と思われて生まれてきたこと、
物でしかない人生、それを知っても淡々と生活していることの残酷さ。
一番恐ろしいのは
治るものと知ってしまった人に、どうやって忘れろと言えます?
という一文かも。
逆戻りはありえない進歩。
間違った方向でも進歩と呼んでいいのだろうか。
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TB&コメントありがとうございました。
僕は、カズオ・イシグロ氏、これが初読みでした。
静謐で、残酷で、切ない作品です。
こんな世界が現実になるのだけは、ゴメンですが・・・。
しかし、この作品のありようとは異なりますけど、現実に僕らは何かの別の命の犠牲の上に生きているわけですね。
思わず考え込みそうです。
静謐で、残酷で、切ない作品です。
こんな世界が現実になるのだけは、ゴメンですが・・・。
しかし、この作品のありようとは異なりますけど、現実に僕らは何かの別の命の犠牲の上に生きているわけですね。
思わず考え込みそうです。
Re:TB&コメントありがとうございました。
切ない切ないお話でしたよね。
わめくでもなく静かに時が流れているというのがまた残酷で。
それ故に命の大切さを噛み締められるようなそんな感じです。
>現実に僕らは何かの別の命の犠牲の上に生きているわけですね
私も読後にそのように考えました。
そう意識しないと間違った発展をしてしまうかもしれないのが人なのかなと恐いことを思ってしまいます。
わめくでもなく静かに時が流れているというのがまた残酷で。
それ故に命の大切さを噛み締められるようなそんな感じです。
>現実に僕らは何かの別の命の犠牲の上に生きているわけですね
私も読後にそのように考えました。
そう意識しないと間違った発展をしてしまうかもしれないのが人なのかなと恐いことを思ってしまいます。
無題
こんにちは。なんとも言い難い作品でした。読んでよかったのだろうかと、自問してしまいました。
↑で指摘されていらっしゃるとおり、命の大切さ、はかなさを感じます・・・
トラックバックありがとうございました。
私もお返しします☆
↑で指摘されていらっしゃるとおり、命の大切さ、はかなさを感じます・・・
トラックバックありがとうございました。
私もお返しします☆
Re:無題
どうしていいのやら混乱しそうな読後でした。
大切な命に何を想えばいいのやら…です。
命は多くの犠牲を得ているなどという言葉で片付けていいものかどうかさえわかりません。
そういう不思議な小説でしたね。
大切な命に何を想えばいいのやら…です。
命は多くの犠牲を得ているなどという言葉で片付けていいものかどうかさえわかりません。
そういう不思議な小説でしたね。