オリンピックを人質に身代金を要求されるという大事件なのに、オリンピックという一つの目標に向かった心を消沈させないために事件をひた隠す警察。
隠されて表沙汰にはならなかっただけで本当にあったのではないか、これはそのドキュメントなのではないか、と錯覚しそうになる。
犯人島崎は兄の死をきっかけにオリンピックで華やかな東京と、遺骨を持って帰った故郷の貧しさ、この差に疑問を感じてテロリストとなっていく。
しかしそこに滾るものが感じられない。
現実を見てしまった、知ってしまったから、とそんなふうで、そこまでする精神の高揚が感じられない。
むしろヒロポンで気持ちが高めらた結果のような気がしてくる。
だからこその犯人の恐ろしさなのかもしれない。
最後に島崎からの視点がないのもそれを裏づけしているように見えてしまう。
C調テレビ局社員須賀の、顔見知り程度だった犯人島崎を必死に気にかける様子の方に体温を感じたなあ。
奥田さんを好きになったのは「最悪」や「邪魔」。
伊良部シリーズ等は軽めで楽しく読めるもののどこか物足りなさを感じていたのでたいへん満足の一冊でありました。
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