これまで独自に辺境を旅し、土地や民族に触れ合ってきた高野さんが今度は他人の記憶を捜すという新しい方法で世界をめぐる。
幻冬舎のWEB上で依頼を募り、その中から厳選された五つのメモリーをたどるという本。
自分主体ではないのに、その一喜一憂ぶりが凄まじい。
依頼を受けたからこその精神の昂りということなのだろうか。
言葉の綾ではなくて、本当に「お、ついてる!」と「ダメか~!」が繰り返されている。
そういう行き当たりばったりな気持ちの揺れを感じるだけでも十分面白い。
依頼の内容は、土産物屋のオヤジやら親切にしてくれた少年を捜すものから、冗談ではなく安否が心配される人捜しまで(一つ著者本人の依頼含む)硬軟あり。
硬だけでなく軟の方でも記憶にたどり着くまでの道のりにはその土地土地の緊張した状況が織り込まれ、紛争も民族対立も経験したことなくニュース等でしか知らない国に生まれ育ったものには現実という言葉が重く感じられる。
それでいて、一つだけ完遂できなかった依頼に対して「依頼人の見つけて欲しいという意志が希薄だった」と結論するのがお見事。
見つけて欲しいという強い意志が著者に憑依するからこその「メモリークエスト」のようだ。
私はもっと読みたい。
ラストの留学を終え旧ユーゴスラビアへ戻った直後に内紛が起こり連絡が取れなくなった青年の話は米澤穂信さんの「さよなら妖精」を思い出させる。
守屋はきっと高野さんに依頼したはず。
そしてマーヤの疑問を通じて彼女の故郷を推理する高野さんが見えるようだ。
まったくの余談ですが、高野さんの奥様って「アジワン」の片野ゆかさんなのですね。
知らずに両者の本を手に取ってる私もすごいな(笑)。
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