ジョン・ヴィンセントは左手の指を6本持って生まれ、人と違っていることでイジメられやすかった。幼い頃から数字を一瞬で覚えられたり見たままの絵を描いたりできたジョンは免許証等の偽造で捕まったこともある。大人になった彼は持って産まれた技術から数人に成りすまし、病歴を偽り、頭痛の発作に悩まされ薬物過剰摂取で病院のお世話になることを繰り返していた。ある日ダニエル・フレッチャーである時に過剰摂取で病院に運ばれ、強制入院させるか否か判定する精神科医との面談で架空の男ダニエルを語りだす。
ジョンは他人に成りすます犯罪者。でもその理由は切ない。大金をせしめようとしているわけではない。生きるためにそうするしかないと信じている。
精神科医との面談の間に挟まれるジョンの過去には心が落ち着かなくなり胸を掻き毟りたくなる。
恵まれない家庭、能力を認められない幼少時、それでもジョンは生きてるためこうするしかなかった。
「曲芸」が生きるために必要なことだった、ジョンの真直ぐさに心つかまれる想いです。
ジョンの父親はいい父親とはいえないが、指の切除を勧めた医師に放った「どれがよけいな指なんだい?」は深く心に残ります。
そしてこの本は三川基好さんの最期の訳だそうです。
トンプスンの本でたくさんお目にかかりましたがこれが最期なのだと思うと読み終えることに寂しさを感じました。
遺された数々の本を読むことはできるのにこの寂しさは何でしょう。
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