平凡な小学校教師、川村優奈25歳がある朝突然「辻斬りのように」男遊びがしたい、との想いにとらわれ実行する。そして未婚のまま子どもを授かる。産まれた一人娘、川村七竈がその異形と蔑むかんばせを受け止め大人へと歩みだす物語。
桜庭一樹さんは「男性?」という印象しかなかったが、年末に出るランキング本で女性だと知った次第(苦笑)。かなりの話題作を書かれているので今頃気になりだし読んでみた。
まず気になるのは文体。直前に「本の雑誌 1月号」で池上冬樹さんが桜庭さんの文章感覚が気になる、と書かれていたのを読んだせいかもしれない。他の小説を読んでいないのでこれは七竈を表現するために必要な言い回しだったのかなと思う。
一番愛されたい人はそばにいてくれず、愛していたい人とはとうてい一緒にいられないことを受け入れなければならない七竈の静かな落胆と希望、重さと清々しさが同居したようななんとも言い難い余韻。冒頭の母優奈が辻斬りになったのは突然のことのようで単なる性衝動のようで理解不能だったが、実はとても深い切ない意味のあること。その辻斬りの結果故に七竈は受け入れなければならない事実につきまとわれるわけで。「わたしの視界から永遠に消えた」に二人の決意の重みが伝わってくる。
七竈の家で警察犬を引退したビショップが飼われることになる。 ビショップ視点のところは「ベルカ、吠えないのか?」を想い起こさせる。擬人化せずに犬は犬のところとか。これがまた心を落ち着かなくする。自分は下から二番目を無意識に実践しているところ、死の臭いを感じてしまうところ、何をとってもまだ立ち直れていない自分を見つけてしまう。ビショップは老犬で体力が落ちてきただけで死なんか迎えない。でも私には何年先になるのかわからないがこの後に待っていることの方が辛い。老いで命が尽きるのならそれはそれで幸せなこと、病気とは違うと思うが。臭いを嗅がせてくれるところなんてどうしようもない。そんなこんなで私には涙の小説だった。
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Re:無題
文体、どうなんでしょ?この本はそういう設定なのかな?と思えますが、何しろ初桜庭さんだったので何ともいえないですね。
しかしあまりにも切なくなってしまったので他のものが読めるかどうか自信がなくなってきました(笑)。
これだけ話題になるということは何かがあるのだということでしょうから時間を空けて(笑)他のものも読んでみたいとは思うのですが。
しかしあまりにも切なくなってしまったので他のものが読めるかどうか自信がなくなってきました(笑)。
これだけ話題になるということは何かがあるのだということでしょうから時間を空けて(笑)他のものも読んでみたいとは思うのですが。