坂木司には引きこもり状態の友人鳥井真一がいる。
放っておくと家から出ないままなのでまめに家に行き、外に連れ出している。
そんな坂木が見聞きした不思議なことを話すと鳥井は真実を見つけ出してくれる。
殺伐としたものも好んで読みますが、安楽椅子探偵や死人が出ない日常の謎ものも結構好き。
これも裏表紙の説明を読んでそういったジャンルだと思って読んだ。
日常かというとそれよりは事件っぽいけれど、確かに謎解きものでもある。
でもメインは坂木と鳥井の物語。
どうして鳥井が精神のバランスを壊しやすく引きこもり状態なのか、どうして坂木は鳥井を第一に考えているのか、こっちの方が気になり謎解きはおまけに感じる。
子どものころに負った心の傷で大人の思考と子どもの感情を同時に持ってしまったアンバランスさ。
それを全部受け止めてやろうと決めた坂木の決意。
受け止めてやるだけではなく、いずれはやってくるであろう、やってこなければならない別れの時に向けての準備もする坂木。
でもそれを想うと涙する…。
そう坂木は泣く。
人のことを想って泣く。
これだけ純な人間はいないんじゃないのか。
鳥井のために勤務形態に融通が利く会社に就職している。
こんなヤツいないよ!と胸元が痒くなってくる。
一方で、この二人の関係を全部肯定はできないけれど、小説なんだもの、善意の懐を信じたっていいじゃないか!という気もする。
心にのしかかってくる部分をちょっと引用。
僕は時々、恐いことを考える。
もし、鳥井の身体がどこか不自由だったなら。
もし、自分のせいで彼がそうなっていたのだとしたら。
誰はばかることのない、それはそれで立派な大義名分が先に立って。
僕は一生、鳥井のことを気にしながら生きていってもいいんじゃないのかと。
結構大きな手術をする時、逆のことを考えた。
これを聞いたら離れていかないかもしれない人のことを。
だから私は伝えなかった。
後日の再会で、あの時伝えなくてよかったのだと思えた。
そんなこんなでミステリじゃなくて主人公二人の周辺から何かを感じてしまう小説かな?という印象。
鳥井が独り立ちできるか?の3部作になっているようなのでそれを見届けたい気もする。
でも思わぬところで胸の内ををえぐられる可能性もあるので体調と相談する必要アリ(笑)。
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