第14回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作の表題作を含んだ3篇からなる短編集。
「暴落」社会人とは株式を上場していることという世界。株価は学歴、家柄、職業、日々の行い、友人等で上がったり下がったりする。人としての評判が株価となって生活に如実に反映されていく。その社会にどっぷり飲み込まれた青島裕二の悲喜劇。
「受難」仕事仲間との飲み会の後意識を失い気がついたら路地に手錠でつながれていた男の不条理話。
「鼻」人間はテングとブタに二分され、テングはブタに迫害されている。テングを救うべく外科医の「私」はブタへの転換手術という違法行為に手を染めていく。そして自分の臭いに悩む刑事の「俺」は少女誘拐事件の犯人として不審な「マスク男」に狙いをつける。
素晴らしい!私に褒められても何も嬉しくないだろうけれど素晴らしく面白かった!本を読んで星をつけたりしない私でも何だか星五つの気分。
表題作の「鼻」はホラー小説大賞だけれど外科医の「私」と刑事の「俺」の話がどうつながるのかのミステリーでもある。最後までわからなかった!騙されたとかの感覚ではなく、そうか~、やったー!という気持ちになってくる。
どれも気に入ったが、「暴落」のブラックさは特に気持ちがいい。人間の価値=株価で、そのために翻弄される愚かさ。人助けをすると株価が上がるからそのために電車で席を譲ったりするのは授業にボランティアを取り入れてることと変わりない。青島裕二の勤めていた銀行の名前、インサイダーから風説の流布、さらには会社(?)更正法と思われる人間再生の流れからドナービジネスまで。ちくちく突きまくる着眼点が見事私のツボ。
何の予備知識もなく図書館の「新しく入った本」のコーナーで手に取り、裏表紙の内容説明に引かれて借りたら大当たりという幸せな出会い。
これは「沈底魚」も読まなくては。
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平凡な小学校教師、川村優奈25歳がある朝突然「辻斬りのように」男遊びがしたい、との想いにとらわれ実行する。そして未婚のまま子どもを授かる。産まれた一人娘、川村七竈がその異形と蔑むかんばせを受け止め大人へと歩みだす物語。
桜庭一樹さんは「男性?」という印象しかなかったが、年末に出るランキング本で女性だと知った次第(苦笑)。かなりの話題作を書かれているので今頃気になりだし読んでみた。
まず気になるのは文体。直前に「本の雑誌 1月号」で池上冬樹さんが桜庭さんの文章感覚が気になる、と書かれていたのを読んだせいかもしれない。他の小説を読んでいないのでこれは七竈を表現するために必要な言い回しだったのかなと思う。
一番愛されたい人はそばにいてくれず、愛していたい人とはとうてい一緒にいられないことを受け入れなければならない七竈の静かな落胆と希望、重さと清々しさが同居したようななんとも言い難い余韻。冒頭の母優奈が辻斬りになったのは突然のことのようで単なる性衝動のようで理解不能だったが、実はとても深い切ない意味のあること。その辻斬りの結果故に七竈は受け入れなければならない事実につきまとわれるわけで。「わたしの視界から永遠に消えた」に二人の決意の重みが伝わってくる。
七竈の家で警察犬を引退したビショップが飼われることになる。 ビショップ視点のところは「ベルカ、吠えないのか?」を想い起こさせる。擬人化せずに犬は犬のところとか。これがまた心を落ち着かなくする。自分は下から二番目を無意識に実践しているところ、死の臭いを感じてしまうところ、何をとってもまだ立ち直れていない自分を見つけてしまう。ビショップは老犬で体力が落ちてきただけで死なんか迎えない。でも私には何年先になるのかわからないがこの後に待っていることの方が辛い。老いで命が尽きるのならそれはそれで幸せなこと、病気とは違うと思うが。臭いを嗅がせてくれるところなんてどうしようもない。そんなこんなで私には涙の小説だった。
「NYから来たレインマンが女の子の足首を切っちゃうんだって。でもミリエルをつけてると大丈夫なんだって」香水を売り出すためのWOM(WORD OF MOUTH)口コミ作戦が成功。しかしその噂が少女の連続殺人として現実となってしまった。所轄の小暮は警視庁からきた名島とチームを組み捜査にあたる。
都市伝説好きでもあるので、噂がどう扱われているのか興味深かった。
しかし、うっかり先に解説を読んでしまったので仕掛けられた「カミソリ」が気になって(笑)。だから名島が犯人の特徴を述べた時にわかりましたよ。やはり解説は先に読んだらいけないな。しかし本当のびっくりは最後の一言にあるわけだから問題ないか。あ、カミソリってこっちのことか!日常のやりとりを聞いていると、そんなふうには見えないんだけど。それが今時の女子高生ってことなのかな。
小暮は5年前に事故で奥さんを亡くし高校生の娘と二人暮らし。娘との生活を優先するため本庁勤務だったのを所轄に転属。私の好きな心に傷を抱えた男の登場かと期待したが。読むものみんな壊れた男だったら食傷だからいいんだけどさ(笑)。
刑事を辞めて制服警官に戻ろうか、名島と組んだことで気づかないうちに甦った刑事捜査の性分、それがぐるぐる葛藤する様子がよかった。若い女性警部補のお守りとの意識から、彼女の境遇を知り能力を認めチームとしてゴールを向かえるのも気持ちがよかった。この小柄な女性警部補の見た目のイメージが福家警部補と重なったのは私だけですかね?
ガイドブック好きなのでここ数年毎年購入している。
20周年記念の感謝価格とかでちょっぴりお安い。
ランキングよりも誰がどんなものを気にいてるのかを知る「私のベスト6」の方が楽しみだったりする。人の本棚を覗くような感覚。
年一回、作家さんの近況を知るのもこの本の魅力だと思う。小川勝己さんが体調崩してるのも昨年のここで知った気がする。だから「この指とまれ」が読めたことが嬉しかったんだな。
海堂尊さんの書き下ろし短編も掲載されてますが(未読)、例年あったジャンル別の総括のようなものがなくなっている。「このミス座談会2007」がその代わりなのだろうけれど。そこがリニューアル箇所なのかな。
でも個人的には書き下ろしとかこのミス大賞受賞作の抄(未読)とかなくてもいいな。
この記事へのコメント
私は毎年、図書館で借りているので、読むのはまだ先になりそうです。
リニューアルが原因なのか、今回の「このミス」は不評のようですね。
隠し玉の他には、海堂さんの短編が気になるのですが、カクテキさんは未読なのですね(笑)。
Posted by めみ at 2007年12月11日 20:53
めみさん、こんにちは。
本を読んだ後でもその本の評判が気になるので、つい買ってしまいます。
今年はハヤカワのも買ってしまいましたよ。
海堂さんの短編を読んでいないのは他意があるわけではなく、単純に今までひとつも読んだことがないからというだけのことです。「バチスタ」も読んでないんですよ(笑)。
>リニューアルが原因なのか、今回の「このミス」は不評
私にだけかと思ったらみなさんにも不評なのですね。
意外と私も普通なんだ!と嬉しくなりました(笑)。
Posted by カクテキ at 2007年12月12日 09:01
雑学王としてもおなじみの伊集院さんのお題にそったエッセイ。週3回、1回400文字以上、というメールマガジン連載(と言うのかな?)されていたものから加筆しての選りすぐり。お題はメールマガジンの読者に「7文字以内のテーマを」と依頼してのものとか。
ラジオの伊集院さんファンとしては過去に聞いた覚えのあるものもいくつか。でもそれをまた文字で読むと新鮮。印象に残る話はやはり2メートルの蛙かな。幼稚園の頃に遭遇したらしいが、私もそのくらいの年の頃に見た馬が家より大きかったような記憶があるからそういうことなんだな、と納得できる。
産まれても生きられなかった犬に対しての心情も伊集院さんだな、と思わせる。犬なんだからなるべく擬人化しないようにと自分にブレーキかけている感じがなんとも。私自身、犬を亡くしたことを人間と区別できず未だに哀しみから抜け出せてないからなあ。
あと670本あるそうなので、次も出版されることを期待。その際にはオリジナルの年月日もつけてくれるとうれしい。いつ頃書いたことなのかがわかった方がより楽しめるもの。






