画家の本庄敦史は、師匠の推薦で知的障害者更生施設「ユーカリ園」でアートワークの指導をすることになる。敦史はそこで、幼い頃に崖から転落した時の頭部損傷の後遺症で精神発達遅滞となった美少女(22歳)河合真理亜と出会う。言葉も話さず何の意思表示もしない真理亜が絵に触れたとたんに才能を発揮する。そんな真理亜の描いた一枚の絵が彼女の運命を大きく揺さぶることとなる。
「アリスの夜」も面白かったけれど、こちらはさらに面白い。
説明してるな~が拭えなかった登場人物の背景がこちらは自然。そして陰謀組織の暗躍ぶりも壮大だ。
事故によって真理亜はカメラアイという力を授かってしまい、事故の瞬間に見てしまったことが頭に焼き付いていることに悩まされ、またハイパー・グラフィアの発作(と言うのかな?)にも悩まされている。
それは敦史が絵に触れさせなければ表に出ることはなかったかもしれない。その深読み責任感以上の感情も敦史に芽生えてしまう。
真理亜は22歳だけどその無垢な様子から子どもにしか見えないようだし。
適役の狂気の追跡と同様、これは「アリスの夜」…?(笑)
そんなこともアートワークグループのみんなと絵を作成する盛り上がりと、事件の骨組みに結びついた後の怒涛の展開を読めばどうでもいいかな。
ただ、師匠の死はどうだろう?。敦史を信じていたことに変わりはないのだろうけれどそこに死を悟ってしまったことの影響を邪推したくなるもの。私だけですか(笑)。
あと気になるのは真理亜は22歳と言っておきながら、PSWの志帆が彼女に選んだ服のなんと幼いこと。かわいいのはわかるけどさ。
それとも無意識に敦史に対して予防線張ってたのか?それなら理解できる(笑)。
あ、今回もGPS機能付き携帯が役に立ってました。
真理亜が苦しむハイパー・グラフィアの症状、以前海外ドラマCSI:NYで作家になりたかった男が家の壁中に原稿を書いてしまうってのがあった。
奥さんに見つかると怒られるから光を当てないと見えないペンで書いてたな。
強いストレスが症状を重くするらしい。真理亜も焼き付いて離れない映像に苦しんだせいだったのかな。
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ERを12シーズン、HOUSEを2シーズン見ててもわからない医学用語ばっかりだ(笑)。著者もそんなところにポイント置いてないでしょうけど。
1988年5月、東城大学医学部付属病院外科研修医となった世良雅志。目をかけてくれる両極端な指導医高階と渡海の元で日々奮闘中。なんて書くと、新米医師の青春成長物語みたい。そういった側面もあるが主題は別のところ。
外科の大ボス佐伯教授に不遜な態度をとり続ける渡海、他病院から放り出されたエリート高階、それぞれ別側面からの異端児が心に期していること、それがポイント。途中から高階のは失速してるように感じだけど。
佐伯教授のブラックペアンに込めた真意、教科書どおりではどうにもならないことへの決断を下した苦しみがひしひしきます。
が、それ以外の佐伯教授はどうなんだろ?世良の「患者の命を粗末にするような判断を教授がするはずない」、その通りだったのだけれど中盤の高階を罠にはめるようなあの戦略はひっかかる。これをきっかけに高階のキャラクターが引っ込んじゃった感じだったもの。それが佐伯教授の作戦か!(笑)
大学を厄介払いされた高階の「帝華大学は出過ぎた杭は打たない、引っこ抜く」は印象的。打たれてるうちはまだ使う気があるってことなのか(笑)。
「バチスタ」で散々話題なのに今まで読んだことなかった海堂さん。
シリーズものではなさそうなのでこれならどうかと読み、読後に調べたら「バチスタ」のスピンオフ的な話らしいじゃないですか、迂闊だ…。
今まで気にもとめてなかったのに急に読んでみたくなったのは「死因不明社会」という本を書かれた経緯にとても興味をもったから。
勤務医ということは知っていたが、どういった方面が専門なのかは知らなかった。
死亡者の98%は見た目だけで死亡診断書が書かれているという。医学の進歩のためにも死亡時に画像診断することの大切さを説いているようだ。興味深い本なのでこれはまた後に感想を書けたらな、と。
2階でブタは飼うな!〈日本と世界のおかしな法律〉 (講談社文庫)
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sonatineさんのところで「へんなほうりつ」のことを知り、図書館で探したら隣に同じ著者の「2回でブタは飼うな!」があったのでまとめて借りた。
両方とも法律を制定した人の頭を疑いたくなるような条文が集められているが、そうなった背景の解説付きなので感心してみたりやっぱり変だと再認識してみたり(笑)。
以前からお国柄の違いによる物事のとらえ方に興味があったので楽しめました。
「へんな~」は条文と解説、「2階で~」は条文と著者の自虐ネタを散りばめた解説(エッセイか)。途中から「もう、わかりました」という気になるので「へんな~」の方が私好み。イラストが五月女ケイ子さんだし。
コラムに書かれている「犬の散歩のせいで大変な事件が!」が印象的。
道路標識が根元から折れ小学生が頭に軽い怪我をしたというもの。その原因が犬のおしっこ。そこが散歩コースだったのか、長年のマーキング合戦の末に錆つき折れてしまったらしい。
犬の散歩で毎日通った公園も入るとすぐ両脇が木の植えられた道になっている。その木の根元全てが変色している。そう、ここもマーキング合戦の場だったのだ。
「いつか腐って倒れるんじゃないかしら?あははは~」だったのが笑い話ではすまないのだな、もう1年ほど公園には行ってないがどうなっているのだろうと恐くなった。
ジャズバー経営に失敗した水原真彦は金貸しの裏にいるヤクザもののいいなり。芸能プロダクションの運転手をすることになるがその中には幼女売春の送迎も含まれていた。「商品」の一人アリスに心を乱され、ある日この世界から逃げ出そうと決意するが一人残すアリスが気掛かりになり連れて逃亡。そんなことが許されるはずもなく、ヤクザものは血眼になって真彦とアリスの行方を追う。
大元にある幼女売春の話には嫌悪するが、アリスに魅かれた真彦が手を出さないで懸命にアリスを助けようとしているのが救い。
逃亡劇のスピード感が効いているのもそのせいか。
一言で言っちゃえば、10歳の娘に本気で魅かれる真彦はロリコンなのかもしれないけれど、本当に守りたいものを見つけた彼の自堕落からの変身は認めてあげないと、という気にさせる。
最後の最後の決断もシスターの言葉通り、「あなたご自身が、そう思いになるのなら、その方がいいのかもしれませんね」。アリスが千鶴以外の誰でもなくなった時に会えばいいじゃないか!と思う。
愛する人の幸せを最優先させる真彦の成長を素直に受け止められる、そんなお話。
小説ならここで終わりだけれど、幼児の性的虐待はその当時は実感がなくても性行為がどんなものかを本当の意味でわかった時に影響が出ると聞いたことがある。
それを千鶴が乗り越えられて、それでもマーくんに会いたいと思ってくれるならそれが本当の再会になるのだと信じたい。
この本が出版されたのが2003年の3月。
振り切ったはずなのにすぐ近くまで追跡されている事を不思議に思いつつ、なかなか携帯電話に思い至らなかったあたりに技術の急速な進歩を感じる(笑)。
この頃はGPS機能付き携帯電話なんて一般人には思いつかなかったのか、と。
冒頭の真彦はリタリン依存症でその理由が「シャブは恐いから」。
でも日に30~40錠も飲んでる。依存性の強い薬のようで今は規制の対象となっているというのが実にリアルに伝わるエピソード。
あとは犬バカとしては犬の描かれ方が不満(笑)。
愛する者に死を〔ハヤカワ・ミステリ1805〕 (ハヤカワ・ミステリ 1805)
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出版社社長マイクの元へ「殺人を計画している、その手記を出版しないか?」との手紙が届く。差出人はP・Sとだけ名乗る謎の人物。業績不振に悩むマイクはこの話に飛びつきサンフランシスコへ向かうが、殺人現場へと誘き出され犯人の疑いをかけられてしまう。NYへ逃げ帰るがサンフランシスコから刑事が追いかけてくる。
マイクに復讐を企てる男の罠なのか?そう思わせて話は進むが、これはサイコ・ミステリかな。
P・Sは誰なのか、決定的証拠になかなかたどりつけない。みんなが怪しいうえになんだか悲しいし。P・Sの手がかりに気付かなかった自分も悲しい(笑)。
彼女の心の傷は折に触れて登場するけれど、犯人のそれは私には読み取れなかったなあ。読み落としなのかな?
登場人物の背景を想像させる書き方は私好みだし、章の終わりで引き付けておいて次の章では別の場面、と映像のような章立てであっという間。テンポで勝負といったところかな。
これは著者の第一作で他にも数冊翻訳本があるようなので興味あり。